<報告>第8回JICA-JISNASフォーラム "JISNAS設立10周年記念「国際協力の新たな方向性と今後の挑戦~大学にとっての国際協力の意義とは~」"
令和元年12月11日(水)午後1時30分より、JICA研究所にて、第8回JICA-JISNASフォーラム"JISNAS設立10周年記念「国際協力の新たな方向性と今後の挑戦~大学にとっての国際協力の意義とは~」"を開催し、大学関係者、JICA関係者、国際機関等より約60名の方々にご参加いただき、講演、パネルディスカッション、意見交換を行いました。
話題提供では、第一部ではJISNS設立から10年間におけるJICA、大学間の連携の成果や課題をレビューし、第二部では今後の10年に向けて、国際協力の新たな方向性と挑戦について話題提供をいただき、議論を深めました。JICA、大学、行政、国際機関等それぞれの立場から様々な意見が出され、貴重な意見交換の場となりました。その概要をご報告いたします。
プログラムの内容
<第一部>「JISNAS設立からの10年間:JICA-大学連携の成果と課題」
JISNASが設立されて10年が経ち、この間、JICAが実施する留学生事業、課題別研修事業、技術協力プロジェクト等への協力を通じて、開発途上国が抱える課題の解決や人材育成に貢献するとともに、JICA-JISNASフォーラムなどを通じて、大学とJICAとの対話や情報共有の促進の役割を果たしてきました。一方、JICAは近年、JICA開発大学院連携構想の下、農林水産分野における留学生事業の拡充を図っており、さまざまな角度でのJICA-大学連携における成果及び課題について議論を深めました。
講演1.江原先生 |
講演2.木田先生 |
講演3.野村先生 |
講演4.浅沼先生 |
【講演1】 江原 宏 JISNAS事務局長/名古屋大学農学国際教育研究センター長
○演題:「JISNAS設立から10年間の成果と課題について」
各大学が国際協力への参入障壁を下げるためのネットワークづくりやワンストップサービス機能の強化を通じ、農学人材育成のためのオールジャパン体制の構築を成果の総括として挙げ、課題として、留学生受入や学生の海外留学に係る情報提供、キャリア支援の要望が多いことを踏まえ、提供する情報の質の向上、課題対応に注力する旨が述べられました。
【講演2】 木田 克弥 帯広畜産大学・教授
○演題:「大学側にとってのJICAボランティア事業の意義と課題」
同大学のパラグアイ・イタプア県小規模酪農家プロジェクトへの学生の協力隊(JOCV)派遣を事例とし、意義として、1)日本を代表して派遣されている自覚と責任感の醸成、2)達成感の体験、3)異文化交流による価値観の多様性や柔軟な思考の修養、4)学問への意欲向上や自身の限界認知とそれを超えるための向上心の醸成等、人材育成への大きな関与を挙げ、課題として、情報発信等によるJOCVへの継続的な応募促進に係る取組を述べられました。
【講演3】 野村 久子 九州大学・講師
○演題:「大学側にとってのJICA開発大学院連携・留学生事業の意義と課題」
意義として、1)JICA開発大学院連携プログラム修了証明により留学生、日本人学生共に実績のアピールに活用できる、2)日本の発展を習得後に母国の現場を見ることで、発展に向けてのベクトルを共有できる、3)留学で得た知識を母国の現場に活かしたい帰国留学生がJICAのプロジェクトと連携する等の組織的な研究交流、4)留学生の教え子が日本に学びに来るなど、次世代の学生の育成につながる可能性などが挙げられ、課題として、各成果を有機的につなげるために長期的な視点での評価、どのようなアウトカム指標をもって評価していくかの継続検討、円滑な運営のための事務体制の構築、就学支援のレベルの統一化、等が挙げられました。
【講演4】 浅沼 修一 JICA国際協力専門員/JST研究主幹
○演題:「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)の成果と課題について」
成果として、1)日本と相手国の科学技術プロジェクトとして認知され日本の強みを活かした科学技術外交に大いに貢献している、2)SATREPSの3つの目標である、国際科学技術協力の強化、地球規模課題を解決するための科学技術水準の向上と知見や技術の獲得とイノベーション、人材及び研究施設設備等のキャパシティ・ディベロプメントが2016年に実施されたJSTの外部評価で全て達成という評価であったこと等が挙げられ、課題として、一定の基準による評価体制構築の必要性、プロジェクトの終了後のフォローアップ体制の検討、JICA開発大学院連携で招聘する留学生のフィールドワークの研究拠点としてSATREPSのプロジェクトで育成した研究組織を活用する等、有機的な連携の重要性などを述べられました。
<第二部> 「今後の10年:国際協力の新たな方向性と挑戦」
JICA開発大学院連携構想に基づく農林水産分野における留学生事業の拡充、多様なアクターにより創造されるイノベーション促進、本邦企業の海外展開を見据えた開発途上国及び我が国の人材育成、国際協力を通じた地方創生支援をテーマに、国際協力の新たな方向性として、JICAとJISNASの連携に係る進むべき未来の姿について議論を深めました。
講演5.睦好次長 |
講演6.緒方先生 |
【講演5】 睦好 絵美子 JICA農村開発部・次長
○演題:「国際協力の新たな方向性とJICAの役割」
JICAの役割として、1)JICA Innovation Quest(ジャイクエ)、JICA食と農の協働プラットフォーム(JiPFA)によるスマートフードチェーン分野などにおける産学官協働活動、アフリカ農業イノベーション・プラットフォーム構想への協力、産学官連携によるフードバリューチェーン強化に向けた協力とスマート化に向けた情報収集確認調査などのイノベーション発現、2)開発大学院連携プログラムの企画・実施やAgri-Net卒業生と日本の若手人材の交流促進を通じた人材育成、3)熊本県との連携協定(通称:熊本モデル)、群馬県のJA邑楽舘林とインドネシアとの連携などの実施例、我が国の地方アクターと途上国アクターの結節点の場としての国内拠点の活用を上げ、農業分野のおける技術とニーズ、ビジネス、社会のそれぞれの結節点となるJICA筑波のTsukuba Agri-Tech Centre構想が紹介されました。
【講演6】 緒方 一夫 JISNAS運営委員長/九州大学副学長
○演題:「大学にとっての国際協力の意義と課題」
意義として、1)国際的大学間ネットワーク形成、2)大学運営における意義(外部資金の獲得、教職員の国際化、大学のブランド力強化)、3)大学組織における意義(国際貢献・大学国際化・学術的・経済的インセンティブ付与)、4)大学教員における意義(人道的・学術的・キャリア追求・経済的インセンティブ付与)が挙げられました。課題として、システムの課題(組織・体制・規則の強化の必要性)、人事の課題(国際協力に対応できる人材の育成)、コンテンツの課題(大学が提供できるシーズと途上国のニーズの一致)、時間(様々な業務に追われる現状等)、JICA、途上国、海外の大学に対する成果の可視化向上等が挙げられました。
【パネルディスカッション】
「国際協力の新たな方向性と挑戦(イノベーション、人材育成、地方創生)」
■パネリスト
緒方 一夫 JISNAS運営委員長/九州大学副学長
木田 克弥 帯広畜産大学・教授
野村 久子 九州大学・講師
吉松 隆夫 三重大学・副学長
伊藤 圭介 JICA農村開発部・次長
浅沼 修一 JICA国際協力専門員/JST研究主幹
■モデレーター
江原 宏 JISNAS事務局長/名古屋大学農学国際教育研究センター長
パネルディスカッションの様子 |
○大学の国際協力に係る課題と工夫
パネラー)国際協力・社会交流含む社会貢献において大学が役割を果たすためには、個人の教員の意欲に頼るのではなく、大学組織としてのメリットや教員個人の業績評価のあり方について継続な議論の必要性がある。
○途上国のニーズに対応できる日本の人材不足の問題
パネラー)個々の大学に限定しないオープンイノベーションにより、JISNASやJiPFAなど、グループの壁を超えたコンテンツの確保、発信する情報の価値を高める方法による対応の必要性がある。
○地方創生・地域活性の手段
モデレーター)農業だけでなく、医学との連携である農福連携等も挙げられるが、どのように現場に展開していくのか、JICA Innovation Quest(ジャイクエ)はその手段の一つとなりうるか。
パネラー)多様なバックグラウンドを持った人材の知見の融合による、従来からは想像もできないイノベーティブなアイデア生み出す仕掛けがジェイクエである。
参加者①)地方大学だからこそ国際協力が地方創生に役立つ。例えば、都市への人材集中と地方の過疎化は世界共通の問題であり、他国の地方の経験や知見はそのまま日本の地方における課題解決に直結するケースや、逆に途上国の地方の人が日本の地方の取り組みからヒントを得て課題解決に取り組むきっかけになるケースがある。
参加者②)JOCV帰国隊員と自治体・民間企業との交流会を生かし、地域解決コーディネーターなどとしてのキャリアパス形成を強化すべきである。
○人材育成について
モデレーター)若い研究者の減少により国際協力に係る持続性が心配される中、工夫された解決法を知りたい。
参加者③)研究・教育以外の間接的な業務を将来的にはAIに処理させるなど成功事例を作ることが重要である。
参加者④)大学の国際協力に関する人事強化として、国際協力活動の評価への反映されるために途上国で得た課題を論文にできる体制構築を提案したい。
○イノベーション発現
参加者⑤)大学教官が大学内に捉われず人材をコーディネートする役割を担うことの必要性について。実例として、留学生が希望する研究テーマを、大学が扱っていなかった際に、その大学の教官が、該当テーマを扱っているメーカーに受け入れの依頼・調整を行い、研究活動を実現させた経験がある。
参加者⑥)適材適所により人材資源を有効活用するデザイン力が求められており、そのための議論の場としてJISNASの活用やグローバル人材育成の取組みに関心のある大学とJICAの協働強化、ジェイクエの多様性を手段としたイノベーション発現への取り組みを強調したい。
総括
フォーラムの様子 |
TV会議参加 |
今回のフォーラムの論点として、1)新興国において途上国の人材確保に向け様々な動きの中、いかに日本が魅力的な人材育成プログラムを提供し人材育成における国際競争力を確保していくか、2)企業等との社会的ネットワークをいかに強化していくか、3)地方創生のために、途上国人材の受入先である産業界が同人材をどのように途上国での事業展開の架け橋や国内の地方活性化に生かしていくべきか、の3点を挙げ、各方面よりJICA-大学連携における国際協力の取組みや課題、未来図について議論を深めました。
今後の方向性として、1)持続性を担保するための組織的研究交流体制構築、2)大学による学術的価値(研究)と国際貢献(社会実装)の両立、3)留学生等を通じた人的ネットワーク構築、4)大学の社会的責任(USR:University Social Responsibility)に係る意識醸成の4点が重要であり、今後、オールジャパン体制での国際協力について産官学連携で取り組んでまいりたいと存じます。
今回は各JICAセンターにご協力いただきTV会議でのご参加もいただきました。参加者の皆様と意見交換の場が持てました事、大変感謝いたしております。JISNASメンバーと、行政や関係機関等とのさらなる連携、交流を図り、JICAにも協力いただきながら今後もこのような機会を提供していきたいと考えています。
カテゴリ: JISNASの活動 |掲載日: 2020年4月10日