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<報告>JISNAS-FAO合同セミナー(第一回・第二回)

本年度より、グローバルな情報や知見を日本の研究者や学生等と共有することを目的にFAO(国連食料農業機関)駐日連絡事務所と合同でマンスリーセミナーを開催することとなりました。毎月1回(11.5時間位)程度、話題を決めて開催していく予定です。

 第一回は5/7に、第二回は食料システムサミットに向けた対話の機会とした特別セミナーを5/28に実施し、多くの皆様にご参加をいただき厚く御礼申し上げます。各回の概要をご報告いたします。

第一回:5/7(金)実施:キックオフセミナー

■プログラム等:http://www.jisnas.com/report/542.html

キックオフとなった本セミナーには120名を超える方々より参加申込をいただき、FAOとその活動について、環境・気候変動・森林分野での最新情報、食料システムサミットの概要と目的などについてFAO側より話題提供を頂きました。

Photo_JISNAS-FAO1st_日比所長講演R2.pngFAO駐日連絡事務所の日比所長より、FAOの活動についての説明、新たな枠組みとしてより良い生産・栄養・環境・生活に向けてより効率的、包摂的かつ強靭で持続可能な食料・農業システムへの移行に向けての戦略的な支援について、また飢餓やフードロス、廃棄の問題にも言及しました。SDGs実現のための緊急課題として農業・食料システム全体、環境・生態系を含めた変革が必要であるとの説明がありました。

Photo_JISNAS-FAO1st_三次アドバイザー講演R.png続いて、三次FAOシニアアドバイザーより、森林分野を切り口に、気候変動、生物多様性、フードシステムについての課題について説明がありました。森林破壊の大部分が農地拡大が原因であり、農業と森林の連続性(環境と調和した農業の促進・食料安全保障との関係)、温室効果ガス削減の問題も含め環境や生態系を含めた大規模な変革が必要であり、COVID-19のような新興感染症の大部分がランドスケープの変化が要因であり、介在する野生生物や家畜も併せ、人・動物・環境のワンヘルス・アプローチの視点に立った取り組みが必要であると言及しました。

最後に、次回の特別セミナー「食料システムサミット(FSS)のための国内対話」では、日本が食料システムが抜本的な改革が必要な昨今、日本国内の飢餓問題、サプライチェーン、フードロスを世界に繋げていけるか議論をしてきたいと考えており、さまざまなステークホルダーの方、次世代の若い方や学生の皆様のご参加に期待をし、次回セミナー(5/28)のご案内をしました。話題提供いただきました日比所長、三次シニアアドバイザー、また多くの皆様のご参加に感謝申し上げます。

第二回:5/28(金)特別セミナー:「国連食料システムサミットのための国内対話」

■プログラム等: http://www.jisnas.com/report/544.html

FAO-JISNAS2nd合同セミナー_ポスター案_210524.jpg今年は国連事務総長提案の食料システムサミットが予定されており、7月に閣僚級のプレサミットがローマで、9月に首脳級のサミットがニューヨークで開催され、それに向けて日本では各種団体等による国内対話が進められています。そこで、今回は食料システムサミットに向けた対話の機会として活用し、「日本の大学・研究機関の視点と期待を中心に」と題し、日本での国内対話の進行状況や世界規模で議論を進めている科学者グループの動向についての理解を深めるとともに、日本での課題や日本の役割・貢献などを中心にパネル・ディスカッションを行いました。本セミナーには計225名のご参加をいただき、食料システムの変革という大きな課題に向けて参加者の考えや問題意識を共有し、今後、日本の大学や研究機関、また大学生・研究者が果たすべき役割について議論しました。

世界食料システムサミットにむけての日本の声、国内対話での進行状況説明

国内対話責任者である大澤誠 農林水産Photo_JISNAS-FAO2nd_大澤農林水産審議官講演R.png審議官より、食料システムサミットに向けての日本の声、国内対話での進行状況について話題提供をいただきました。サミットの5つの活動指針である1.質量両面にわたる食料安全保障(栄養面)、2.食料消費の持続可能性、3.環境に調和した農林水産業の推進、.農山漁村地域の収入確保、5.食料システムの強靭化を掲げ、食料システムの変革が急務となっていますが、サミットの準備として、a.みどりの食料システム戦略、b.国内対話があげられ、b.は現時点で80回以上にのぼり、さまざまなステークホルダーからの意見が出され、6月中旬の会合で取りまとめサミット事務局へ提出されます。a.30年後までに目指す姿を設定しあえて高い目標を設定して、バックキャスティングで今何をすべきかを考える必要がある(化学肥料使用、温室効果ガス排出量、持続可能な調達、ESG投資の促進等)と言及しました。

世界食料システムサミット科学者グループの動き

Photo_JISNAS-FAO2nd_北島教授講演R.png次に、食料システムサミット科学者グループメンバーである北島薫 京都大学教授より科学者グループの動向についてについて話題提供をいただきました。サミットの5つの活動指針ごとの問題提起と行動計画指針が科学に根ざしたものとなるように助言を行い、「3.環境に調和した農林水産業の推進」の報告では、自然に貢献する食料生産システムの3つの柱を掲げ、4月開催のバチカンワークショップの共同声明では、食料システムを改変すべき科学的根拠や持続的な食料システムの確保、社会学の重要性、社会的弱者への配慮、生態系の保全が挙げられました。また、科学者が分野や専門性を越えて社会と協力する必要性について言及しました。

パネル・ディスカッション「食料システム変革-日本の視点と日本の役割」

Photo_JISNAS-FAO2nd_パネルディスカッション2-1.jpgパネルディスカッションでは、サプライチェーンの川上、川中、川下の立場であるパネリストの皆様より、食料システムの川上と川下をつなぐ可能性やチャレンジ、持続性、環境との調和、フードロス、等をキーワードに議論を行いました。

フードシステムに向けて、芝田様より、消費者の立場より、フードセーフティネットの構築に向け、余剰農産物・食品の有効活用、脆弱者への食のアクセスへのしくみ作りの必要性について、古谷先生より、水産業生産の立場より、自然生態系の保全の必要性とともに小規模経営(家族漁業)を見直して優れた特長を活かした多様な在り方の探求について、徳田先生より、農業生産・流通の立場より、農村を再構築し効率的かつ持続的な食料システムを確立し日本の経験を世界に発信することでシステム変革への貢献について、金丸様より、川中企業の立場より、バリューチェーンを俯瞰視し、日本の食が評価される昨今、国内市場の奪い合いではなく世界に向け企業を超えた新たなコミュニティ創出の必要性について、発言がありました。

次にそれぞれの立場における課題や役割について、消費者の立場より(芝田様)、現在のフードシステムのリスク回避の傾向から環境に負荷のかからない食品の流通や食品ロスの有効活用の必要性について、科学の立場より(古谷先生)、海洋資源や食との関連性として、適切な漁業資源管理、海と森との関連等(例:宮城の牡蠣、カナダのサケ)、どのように循環していくかについて、また学術的な挑戦の必要性について、生産者の立場より(徳田先生)、コロナ禍の影響として需要減による廃棄増および労働力の課題があり、迅速かつ柔軟に対応するにはローカルシステムの有用性、また流通チャネルの選択肢を持つ必要性について、企業・消費者の立場より(金丸様)、作る側が変わらないと食べる側も変わらず、社会の構成員としての意識を高めるためのプロモーションの必要性、企業側も意味のある物を適正価格で販売する企業努力の必要性について、発言がありました。

また、大学・機関がフードシステムの変革に期待する役割について、金丸様より、研究が社会に貢献、企業等との対話、実装のしくみができることを、芝田様より、食は国の根幹を担っており国力維持の研究を、科学に基づいた資源の有効活用を、徳田先生より、1.食料システム変革、2.技術に対する教育(エンパワーメント)、3.多様なステークホルダーとの関わりを、古谷先生より、深堀するだけでなく社会科学の連携し包括的な中長期的な展望を、それぞれ期待し担っていく必要がある旨発言がありました。

まとめ

Photo_JISNAS-FAO2nd_取りまとめR3.png議論の取りまとめとして、モデレーターの三次FAOシニアアドバイザーより、5つの活動指針に集約されるが、大学や教育機関の役割、いかに連携していくか、また、評価への課題、国際的な役割の展開、分野横断的な学際的なアプローチ、将来の研究者の育成と強化、脆弱者へのアプローチ、環境や気候変動を考える際のキーワードとして、エンパワーメント、レジリエンス、等の課題があげられました。次に、山内JISNAS運営委員長より、フードシステムの変革には分野横断的、学際的な研究が必要で、どのように促進し、研究成果を上げて強靭なシステムを構築し社会実装に持って行けるかが課題であり、全国の農学系大学及び機関等と連携しながら研究ベースの人材育成に尽力していく旨発言がありました。また、日比FAO駐日連絡事務所長より、ローバルな報告書やデータを研究、政策提言、対話等にどのように利用できるか、環境や食料システムを考える上で国際的視野を持ち、循環、多様性について広い視野を持ち、リスクに備え複層的なチャネルの重要性、また大学生グループ「FAOフレンズ」のような次世代の声や教育の重要性についても挙げられました。最後に、大澤農林水産審議官より、様々な話題提供がキーワードに集約され豊かな対話が行われ、多くの議論への気づきがあったと感じ、議論を取りまとめ国連にご報告いただく旨お話があり、閉会となりました。

生産・加工・流通・消費のいろいろな立場からの話題提供により多様な話題が有機的に結びつき、食料システム全体を考える場になりました。身近な食の問題を通して、自分事として考えるきっかけ、気づき、議論の場になりましたら幸いです。食料の問題の解決には、幅広い当事者のご参加が不可欠であることを痛感しました。また、FAOJISNAS双方の理解が深まり、大学関係者や学生の今後のアクションにつながればと思います。今回は学生の皆さんにも多くご参加いただきました。今後のセミナーにおいても議論が深まることを期待しています。話題提供いただきました皆様、ご参加いただきました皆様に心より御礼申し上げます。

報告

■農林水産省のHPに国内対話の報告記事が掲載されました。
 http://www.maff.go.jp/j/kokusai/index.html

■農林水産省のHPに、JISNAS・FAOのコミットメントが公開されました。
 https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kanren_sesaku/FAO/commitment.html


カテゴリ: JISNASの活動 |掲載日: 2000年6月 2日